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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)845号 判決 1970年10月27日

理由

本件土地がもと控訴人の所有であつたことおよび本件土地に控訴人主張のとおりの登記がなされていることは、当事者間に争いがない。

被控訴人は、控訴人の代理人である松永定男との間で本件土地につき代金を三〇〇万円とする買戻特約付売買契約を締結したと主張し、控訴人はこれを争うから考えるに、松永が控訴人のために右のような代理権を有していたことについては、これを認めるに足りる証拠がない。

そこで、次に、被控訴人主張の表見代理の成否について判断する。

《証拠》によれば、控訴人は昭和三八年一二月頃松永に対し他から三〇万円の融資を受けることを依頼し、かつ借受金債務の担保として債権者に差し入れるために本件土地の登記済権利証、控訴人名義の白紙委任状および印鑑証明書等を同人に交付したこと、松永は自己の経営する会社と取引のあつた静岡相互銀行横浜支店勤務の松本梅雄に対して、控訴人よりの依頼の趣旨に反し、本件土地を担保として自己を借受人とする三〇〇万円の融資の斡旋方を申し入れ、かつ前記登記済権利証等を松本に交付したこと、その結果、松本の斡旋により、昭和三九年二月一三日被控訴人の父吉田久一が被控訴人を代理して松永に対し三〇〇万円を貸しつけるとともに、右貸金債権担保のため松永を控訴人の代理人として本件土地につき被控訴人主張のとおりの買戻特約を付した売買契約を締結し、翌一四日本件土地について右買戻特約および売買契約を原因とする本件登記が経由されるにいたつたこと、吉田は右契約締結に際し松本から本件土地の登記済権利証等前記書類を受け取つており、かつ松永から右担保物件を見せると称して現地付近を案内されたこと(ただし、松永が本件土地として指示した箇所は全く別個の土地であつた。)、以上のような経緯から、吉田は松永に右三〇〇万円を貸し付けるに際し、同人が控訴人を代理してその所有の本件土地を担保に供する趣旨で買戻特約付売買契約を締結する権限を有していたことについてなんらの疑念を抱かなかつたことが認められる。《証拠》中、右認定に反する部分はこれを採用しえない。

右認定事実によれば、松永は控訴人のため本件土地を担保にして三〇万円を借り受けるべき代理権を踰越して、被控訴人からみずから三〇〇万円を借り受け、その担保のため本件土地につき被控訴人との間に本件買戻特約付売買契約を締結したものであり、被控訴人は松永が控訴人のため本件買戻特約付売買契約を締結する代理権を有するものと信じ、かつそのように信ずるについて正当の理由があつたものということができる。被控訴人側において本件買戻特約付売買契約締結に際し控訴人本人に対してその真意を確認しなかつたことは、当事者間に争いのないところであるが、そうであるからといつて、前記認定事実に照らせば、右のような正当な理由の存否に関する判断を左右することはできない。

なお、控訴人は本件買戻特約付売買契約締結にあたり松永が本件土地とは全く別個の土地を指示しこれについて契約がなされたものであるといい、松永が本件土地と称して全く別個の土地を指示したことは前記のとおりであるが、前記認定判断を覆えして右指示された土地について買戻特約付売買契約がなされたことを認めるべき証拠はない(かりに、右のように誤つた指示のなされたことが本件買戻特約付売買契約につき要素の錯誤をもたらす余地があるとしても、表意者たる控訴人側においてこれを理由とする右契約の無効を主張することは許されない筋合である。)。

してみれば、本件登記は控訴人および被控訴人間の買戻特約付売買契約を原因としてなされたものであつて、控訴人においてその抹消登記手続を求めることは許されないものというべく、本訴請求は理由のないことが明らかであるから、これを棄却すべきであり、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

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